
| 第一六回のころねっとセミナーは、前回に引き続き中日新聞生活部記者の安藤明夫先生を講師にお招きしました。先月号でも紹介しましたが、安藤先生はSHARE(日本自閉症協会愛知県支部ニューズレター)、CAPNA(子どもの虐待防止ネットワーク・あいち)、ASK(アルコール問題全国市民協会)など様々な場面で活躍中です。 今回のテーマは、「虐待とトラウマ・パート2」です。 |
| 前回の講演の後の質問に、「見えない虐待」についてもっと知りたいというものがありました。この質問にお答えしたいと思います。家族の役割には「無条件の愛情」「安らぎ」「助け合い」「信頼」「学び合い」などがあります。こうした人間関係を持っている両親のもとで育った子どもは、健全に育つでしょう。これらが完璧に備わった家族というのはないでしょうが、これらのうち何かが極端に欠けていれば、その家庭の子どもはかわいそうです。犯罪ではないけれど、子どもが育つ上で必要なものを与えられないのは、「見えない虐待」だと言えるでしょう。 現在、多くの人に様々な心の問題が見られます。思春期の子ども達に見られる拒食症や過食症、引きこもり、非行などは、子ども達が窮屈に生きていることの表れで、SOSのサインだと言えます。また、うつ病の大学生が増え、死亡原因の第一位が事故から自殺に変わりました。大人の世界では、完璧ママや仕事中毒というのも問題になっています。そうした大人たちの中から、アルコール依存症や児童虐待、夫から妻への暴力といった問題が生まれています。 これから、児童虐待に焦点を当てて話を進めていきます。子どもの虐待は、今、始まったわけではありません。江戸時代には、間引きや人身売買がありました。戦後の浮浪児も、両親が亡くなった戦災孤児ばかりでなく、家族の機能が崩壊したために家を飛び出した子が数多く見られます。時代とともに児童虐待の質が変わってきたのです。 児童相談所に子どもの虐待が通報されると、児童福祉司が訪問調査をし、児童福祉法にもとづいて処置されます。けれども現実には、担当者の数が足りなかったり、関係機関の連携がうまくいかなかったりして、助けられる子を死なせてしまったという例がいくつもあります。また、問題は児童相談所だけでなく、虐待による負傷を診断できない医療機関や、周囲で虐待が起きていても気にしない近隣社会ににもあります。 虐待を受けた子どもは、心に大きな傷を負います。その傷を癒すうえでの課題もあります。虐待されている子どもを保護して養育する施設には、劣悪な環境のものがたくさんあります。それは、児童虐待について世の中の関心が低いために、予算が配当されないからです。また、家庭で傷つけられるだけでなく、学校でも傷つけられ、回復する場を見いだせない子どもも数多く見られます。 こうした問題は、時間が経てば経つほど複雑になって、回復が困難になります。ですから、アメリカは予防にたいへん力を入れています。それだけ問題が深刻だとも言えますが、児童虐待の対応も日本の児童相談所とは比べものになりません。その点で、日本の行政はアメリカに学ぶべきです。 虐待された子どもが元気を取り戻すためには、古い傷を癒すとともに、新しい傷をつくらないことが重要です。そのためには、価値観の転換を図り、個人の成熟した世の中を目指さなければなりません。 自分が問題を抱えていることで、大切なことは何かということに気づくことができます。そうした問題を抱えた人、言い換えれば当事者が社会に働きかけることで、社会はよくなっていきます。児童虐待はたいへん陰惨なことですが、その陰惨な部分から、最も明るい未来を見つめていくことが大切だと思っています。 |
(文責・編集部) |