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第56回セミナーだより
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| 第56回のセミナーでは、病院で臨床心理士をされている浅田伸史先生をお招きして、「回復へのステップ ― 病院でできること」というテーマでお話をうかがいました。 |
| 私は精神科の病院で働いています。病院の役割というのは、病気を治すこと、治療をすることなんですが、精神科の病気の場合は、はっきりしたことがわからない場合が多いです。たとえば、夜眠れないという症状が出た場合、睡眠薬を処方して、眠れるようになれば解決するかというとそうではありません。その症状が出た病気の背景を探る必要があります。その背景とは、心の問題です。 心の問題を突き詰めて考えると、対人関係に行き着くと思います。その対人関係には二つあります。一つは自分と他の人との関係、もう一つは自分と自分自身との関係です。自分と自分自身との関係というのはちょっと分かりにくいかもしれませんが、自分で自分のことをどう思うかというようなことです。 さて、今日のテーマにある回復のために精神科の病院でできることというのは、薬を処方したり、カウンセリングをしたりして対人関係を築くための条件づくりをするということです。 病院に来る人たちは、回復することを望んでいます。現在の苦しい状態から何とか抜け出したいと願っています。では、なぜ、このように苦しむことになったかというと、過去の環境や生活によって身につけたものが原因だと考えられます。回復するためには、それを変えていく必要があります。 患者さんたちは、自分自身が困っていることをいろいろと話してくれます。その人たちと話していて回復のために必要だと思うことが二つあります。それは「時間」と「苦しむこと」です。 ある男性のことを例にお話しましょう。この男性には、今日、こうして事例を話すことについて、事前に承諾を得てあります。 その方は小さい頃から、両親や友達との関係で苦しんでいました。二十歳の頃、精神科の医療機関につながりました。そしてカウンセリングを受けたのですが、症状が悪化したため入院することになりました。その後、入退院を繰り返したそうですが、ずっとカウンセリングがうまくいっていなのではないかという思いにとらわれていました。 私が出会ったのは、退院して二年ぐらいたったころです。生活は何とか成り立っていましたが、相変わらず対人関係には苦しんでいました。その人は、幼い頃に両親や兄からされたことやこれまでの治療の様子を話してくれました。そうする中で、過去のいろいろな体験が整理されてきました。私とのカウンセリングが終わったのは四十五歳のときです。そのとき、彼自身が過去を振り返って思ったのは、自分やカウンセラーが悪かったのではない。すべて仕方がなかった。そう考えられるようになるまで二十年の時間がかかったということです。 その人と話をしていると、カウンセリングをしている私も苦しくなってきます。話を聞くだけで苦しくなるような体験がどれだけたいへんだったかは想像できます。苦しい状況は苦しいには違いありませんが、それを変えることも新たな苦しさを引き受けることになります。 回復の様子というのは、直線的に一定の調子で回復していくのではありません。全く変わらない状態が続いたり、逆に落ち込んだりしながら、あるとき急に回復したりしていくのです。 そのとき「時間」を感じないと回復は望めません。回復する前に力尽きてしまうことがないように支えるのが医療機関の役割だと考えていますが、日常生活で実際に困っていることを取り除くために病院でできることには限界があるのが現実です。 フロイトという精神分析学の学者は「ワークスルー」ということを言っています。それは、人が変わっていくためには、時間をかけてやり続ける必要があるということです。 |
(文責:編集部/講演日:2002年11月) |